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新聞記者に《点字ブロック》を教えてもらう
大原さんから事件の依頼を受けた後、裁判所に訴状を提出するまでに約1年間が経過している。
その間は、ひたすら調査をしていた。
過去の国家賠償の裁判例も調べる必要があった。
どれだけの人がホームから転落しているかということを調べる必要があり、現に転落経験を持つ視覚障害者から事情を聞いた。
多くの視覚障害者から《私も転落した!》という話を聞き取りした。
それがどれほど怖い経験であるかもわかった。
証人として裁判に出てくれるという、裁判に協力してくれる人も多数いた。
ただ、悩んだのは国鉄にどういう義務違反があったのかという点だ。
国鉄にホームからの転落防止義務があり、転落防止のために駅員をホームに配置すべきでもあったが、転落防止の設備もするべきだとも考えた。
ただ、転落防止設備があるのか、最初は皆目、わからず、悩んでいた。
ちょうど、そのころ、僕が訴訟を起こすということを聞きつけただろう、新聞記者が取材に来た。
「点字毎日」という毎日新聞社が視覚障害者用に発行している新聞の記者で真野さんという人であった。
取材の中で転落防止設備で悩んでいるということを言った。
すると、真野さんは《点字ブロックがあります》とすぐに言い、それが国鉄阪和線の我孫子町駅に設置されていること、点字ブロックは岡山にある会社で製造されていることを教えてくれた。
点字ブロックなら、一旦、設置すればよく、人を配置する必要もなく、予算的にもそれほど高額な費用がかからない。
この真野さんのアドバイスにより、僕は、国鉄は点字ブロック設置義務を怠ったのだという点に訴訟の焦点を絞ることにした。
その事件が社会的に注目されるものだと新聞記者は取材に来て、その見返りに情報をくれる。
取材に応じてくれたことのお礼という気持ちであったかもしれない。
ギブアンドテイクといえばそれまでかもしれない。
しかし、真野さんも視覚障害者のホーム転落事故を報道してきたはずであり、その悲惨さを感じていたのだと思う。
又、国鉄相手に訴訟をするために苦労している新米弁護士の姿を見て、可哀想と思って、アドバイスをする気になったのかもしれない。
僕にとっては本当に役に立った情報であった。
点字ブロックを作っていた会社の箱山さんからも多大の協力をして頂いた。
それが社会にとって必要な訴訟であれば、皆が注目し、心ある人が必ず現れて協力してくれ、情報を与えてくれる。
そんな初めての経験が真野さんとの出会いであった。
(弁護士 大澤龍司)