大原訴訟の意義
大原訴訟が獲得したもの
本ホームページを作った理由
人は必ず助けてくれる
闘いは続けなければならない

運動の流れ
年表
点字ブロックの普及

あのとき、こんなことが・・ 大原訴訟 エピソード集
仲間たちとの30年ぶりの会合
 あの時、それから、そして今



訴訟資料集
各審級の判決等の訴訟資料を掲載する。
また、大原訴訟は法学の世界でも 注目を集めていた事件であった。
当時の判例集や論文についてのまとめや コメントを付した。
著作権の関係で、文献を掲載することはできないが書誌情報をあげておくので、詳細に興味のある方は 直接文献を当たっていただきたい。
判決文
第一審 判決文
 [wordファイル]
 [PDFファイル]

控訴審 判決文
 [wordファイル]
 [PDFファイル]

上告審 判決文
 [wordファイル]
 [PDFファイル]
判例評釈・論文
作成中

新たな動きのために
 作成中



サイト内検索




※在りし日の岩橋英行先生です。

何が岩橋先生のこころを動かしたのか?
・・・大逆転の説得術・・・

それまでは激しく反対していた人が、突然、賛成に転じる。
そんな劇的な経験をしたことがある。
いままでの人生でただ1回だけの経験だ。
日本ライトハウスという視覚障害者への支援事業を行う社会福祉法人がある。
岩橋英行先生はそこの理事長だった。
大原訴訟の控訴審で、岩橋先生に証人になってもらおうと頼みに行った。
そのとき、岩橋先生は言った。
《国鉄なんかに点字ブロックを作ってもらわなくてもいいのだ。
視力障害者は白杖を使って、自由に自分の行きたいところにいくべきだ。》
ライトハウスは長い杖(ロングケイン)を使って障害物を察知してどこにでもいける歩行訓練をしており、点字ブロックなどは必要としないどころか、視力障害者の自立に害になるのだとも言われた。
もともと、証人になってくれるという確信があったわけではなかった。
しかし、それにしても最初から話がかみ合わないどころか、反感をもっておられるのかという感じがした。
この大原訴訟を支援してくれる団体の中には、過激な障害者団体もあったから、それが影響しているのかとも思った。
一向にかみ合わない話が進んだ段階で、岩橋先生は吐き捨てるように言った。
《君は私の権威を利用したいのだろう》
この言葉が出たとき、先生は証人に出ないという決意をしているのだと確信した。
ただ、言いたいことは言っておきたい、ということで次のようなことをしゃべった。
《そのとおりです。権威ある先生にプラットフォームがどれほど危険かをしゃべって欲しいんです。視力障害者がホームから転落してどれほど怖い思いをしているかを先生の口からしゃべってもらって、裁判所を動かしたいんです。》
この言葉をきっかけにして、岩橋先生の態度が一変した。
その後にどんな話が出たのかは憶えていない。
ただ、岩橋先生には証人になってもらって、裁判所を動かす証言をしていただいた。
それだけではなく、控訴審で勝訴判決が出たときにはわざわざ先生の自宅で奥さんの手料理でお祝いのご馳走までをしてもらった(そういえば、そのとき、ライトハウスの今の常務理事である關宏之さんも一緒だった)。
一体、何が先生のこころを動かしたのだろうか。
先生としては、《権威を利用したいわけではない》という言葉を予想し、それに対する反論を用意していたのかもしれない。
それをあっさりと認めた、権威を利用して視力障害者の苦しみをなくしたいのだという、言葉が先生のこころを動かしたのだと今まで思ってきた。
しかし、この文書を書いている今、それだけではなかったという気持ちになっている。
あの言葉の意味や内容ではなく、むしろその言い方を聞いて、先生はこの弁護士は自分と同じものを持っている同種の人間だと思ったのではなかったか。
先生は中途失明である。
失明のときにどれほどの悲しみと苦しみを味われたことか。
そのような経験の中から身につけた何かをもっておられたのではなかろうか。
若くて頼りなかった弁護士の精一杯の言葉やそのトーンが、先生のこころの中の何かに触れ、二人の間に共通の回路ができたのではなかったか。
先生は控訴審の勝訴後、しばらくして亡くなられた。
あのとき、先生のこころのなかに何が起ったのか、結局、聞けないままで終わってしまった。
(弁護士 大澤龍司)